戦闘機械バンダーラ


 メカ・バンダム  

「パァパッ!」斎藤自身だった。その裸体が戦場である宇宙空間を飛んでいた。
「何が見えている!」真空に舞うフェアリーのような全裸の斎藤の、尻の毛まで見える姿を
アルチンゲールαのコックピットで目撃した瞬間、タカハシはそれを撃墜すべきだと考えた。
だが、人間がその生存を成し得ないはずの絶対零度の闇に、斎藤の裸体はあり得ない速度で消えていった。
(幻覚‥?)タカハシはアルチンゲールを旋回させた。
「…!Νバンダムが墜ちたというのか!?」
二年前の月世界戦争でエースと言われたコウ・斎藤と、そのチューンナップされた
独特のシルエットを持つバンダムタイプの名機が撃墜された!?
「αのサイコミュが見せたと言うのか…。あるいはバ、グ‥?」
だがそれは幻覚だった。
タカハシは出撃前にテキーラを飲み過ぎていたのだ。
「笑われてしまうな、クミコに‥」
タカハシは秘書のふっくらした顔や胸を思い出す。
彼女には何度かモーションをかけていた。だがその度、うまくかわされている。
総帥という立場を利用したりもするのだが、それでもなかなかうまくいかなかった。
「私の顔が生理的にイヤとか、そういうレヴェルだろうか…」
クミコはなかなかやらせてくれない女なのだ。

 メカ・バンダム2  

イースト・イズ・シティに舞う花粉は、ビル群を黄色く霞ませてしまっていた。
サイトウは反応していた。
「軍の薬が効かないとは…この季節のこの地域には降りたくなかったな」
五ヶ月ぶりに踏みしめる本物の大地への感動は台無しだった。
鼻や耳の奥はチリチリと刺激されて呼吸が落ち着かず、目の痒みに到っては
まるで細かい虫のような無数のノイズが表面に張り付けられたようだった。
両の目に熱湯を浴びせてしまいたかった。
「マイツめっ、何だって新型マン・アーマーの開発を下界(=地球を差す蔑称。スペースノイドが好んで使う)なんかの工場に発注したんだ」
バン・イージスタイプの新型が完成したというのでパイロットであるサイトウが試乗を兼ねて現地に受け取りに来たのだ。
大気圏突入の際にザムールにカプセルを狙撃されかけた時は死ぬかと思った。
帰ったら情報士官とマイツ艦長の顔に唾を吐きかけたかった。
サイトウは電車に乗った。
車内には花粉が蔓延しており、サイトウは目の前のヤクザの後頭部におもいっきりくしゃみをしてしまった。
「すいませんスイマセン」
ヤクザの顔は怒りでみるみる紅潮していった。
サイトウの意識は明滅し、シャットダウンを望んだ。望んだ

 メカ・バンダム3〜しろい夢〜  

「腕なんか飾りですよ」
バンイージスの開発責任者・カモシタが言う。
確かに彼の言う通り、イージスの両腕にあたる部分はそれぞれが大型キヤノンの砲身になっていた。
つまりは只のばかでかい合金の筒なのだ。
「マンアーマーってのは、要するに戦争するための道具でしょうが。
人間みたいに武器を持たせるぐらいなら初めから両腕自体が大砲になってた方が効率的なんです」
そうたたみかけてくるカモシタの早口はサイトウの癇にさわった。
「確かに君の言う事も一理あるかもしれない‥が、我々が送ったイージスの設計図から大幅に変更されすぎている
この機体は明らかな契約違反である!受理する訳にいかないな…」
「まあそう言わずに、まずは試乗なされてみてはいかがですか」
サイトウはため息をついた。
「マニュピレーターも付いてないマン・マシンなんて…」
「だまされたと思って…」
サイトウはとりあえず試乗してみた。
が、先日、電車の中でヤクザに暴行を受けヒビの入っていた助骨が発進の時のGで完全に骨折し、サイトウは失神し、イージスもろとも大破した。
サイトウは大破の中で白い夢を見た。いつもの、ホモ、のマイツ艦長に尻を犯される悪夢、だった。あ、く、む…だった。

 メカ・バンダム4〜コウイチの嘆息〜  

ホモのマイツ艦長がサイトウの尻をねらうようになってから12年が過ぎていた。
出会ったころは青年だった二人も、今は不潔なぶ厚い脂肪に腹を被われた無残な中年に姿を変えていた。
マイツは宇宙艦生活の長さのストレスからか、顔の半面に脂肪の疱瘡ができる独特の宇宙病にかかっていた。
「サイトウのカプセルです」
「……」
「…?キャプテン、収容しますか」
「…そうだな」
マイツはふてくされたように投げやりに言い放った。
「コウイチめ、イージスをオシャカにしたうえ三ヶ月も下界で時間を無駄にしおって…」

*

「おかえり、コウイチ。イズでかわいいゲイシャはナンパできたのかい?」
MA整備士のジャコフだった。
そのいかにも白人らしい小粋なジョークを含んだ物の言い方はコウイチの癇にさわった。
「イズはオドリコだよっ!こっちは大けがをしてナンパどころじゃなかったさ!」
そう怒鳴ってカプセルから出てきたサイトウ・コウイチの顔の中心にはX字形の大きな傷があった。
そうとうな事故だったらしい。
「…怒るなよコウイチ。この三ヶ月、あんたに下界の悪い女が付かないかってお姫様が心配してたぜ」
「お姫様だって?」
「フローレン・ポワロだよ」
サイトウはため息をついた。

 メカ・バンダム5〜ギプス〜  

「ジャコフ、あの娘は妹みたいなものさ」
「じゃあ俺がベッドに連れ込んでも文句はないのかい?」
サイトウは無言、無表情で若いジャコフを見つめた。
43歳の無表情にエックス字形の傷が足されてそこそこのスゴミが生まれた。
ジャコフはサイトウにはわからない己の母国語で小さく罵りの言葉を吐いて退散した。
ジャコフの後ろ姿が廊下を流れて角に消えるとサイトウは大きく安堵のため息をついた。
彼は自分より20歳以上も若いジャコフが、途中でキレて殴りかかってくるのではないかと内心ビクビクしていたのだ。
(だが俺は威厳を保てていた…)サイトウはその事に満足した。
そして緊張が緩んだためか、不意に大量の屁が漏れた。
艦内のこのエリアは無重力だったため、サイトウの体はロケットの様に頭上に直進し天井に激突した。
そのまま失神して、しばらくその場にフワフワと浮かんでいた。
テレビ版の方のビグザムにやられたスレッガーのようだった。
コウイチは首をちがえて一週間ほどギプスで固定する事になった。
それと前歯の一部を欠損した。その白い破片も浮いて、天井の近くを流れていた。
コウイチは、今はただ眠りについていた。今だけはそれが、許されているのだから…。

 メカ・バンダム6〜ディープ・ディープ・キス〜  

「コーウッ大丈夫なのっ!コーウッ」
医務室に飛び込んできたのは17才の少女、フローレン・ポワロだった。
コウイチは白いベッドの上で眠っていた。重力ベッドだ。
その傍らにマイツ艦長が立っていた。
「ポワロ君か…サイトウ兵曹長は大丈夫だ。今は麻酔で眠っている」
フローレンは胸をなでおろした。
「良かった…私、ジャコフからコウイチの首が折れたって聞いていたもので…」
「…!?随分と悪質な冗談だな…」
「いいんです、コウイチさえ無事だったなら。コウイチ…」
フローレンはベッドに近づいてゆきコウイチの顔を見おろした。
目を閉じたコウイチの唇がやけに濡れていた。
マイツの顔を見上げると、やはり唇がテラテラと光っており、その視線に気づいたマイツはあわてて軍服の袖で唇を拭った。
フローレンはがく然とした。
「マイツさん…!」
「だから…、だから何だと云うんだよっ!」
フローレンの潤んだ瞳に精神的に追いつめられたマイツは逆ぎれした。
「でも…!男の人同士でそんなの…っ絶対に変です!コウイチは眠っているのに…コウイチがかわいそうです!」
フローレンはその場で、わっと泣き出した。
「小娘ェ‥!」
マイツはゆっくりした足取りで少女に迫っていった。

 戦闘機械バンダーラ  

斎藤は動物的本能で急速に覚醒した。
ぼやけていた視界がはっきりすると、すぐ横の影がマイツとフローレンであり、フローレンはマイツに首を絞められて声も出せずにもがいているのだとわかった。
「キャシャラアァァッ!」
斎藤は奇声を発し、ベッドから跳ね起きざまにマイツの横顔に回し蹴りを浴びせていた。
マイツの宇宙病のできものが破裂し、膿が飛び散った。
斎藤の左目に入ったそれはものすごい痒みを誘発した。
「コウイチっ!」
「フローレン!一緒に来い!」
マイツは失神していた。いや、死んだのかも知れなかった。
斎藤はフローレンの手をとって走りだした。廊下に警報が鳴り響いた。
「コウイチ!警報が!」
「狂っているんだ!この艦のやつら、…この戦争だって‥!」
二人はマン・アーマーデッキに逃げ込んだ。
「くそっ、ろくなマシンがない!」
「どうするの、コウイチ。前のバンダムは高橋のクローンにこわされちゃったのでしょう‥?」
「浩一、戦闘人バンダーラーを使え」
「父さん!」
父・リョーテムだった。
「お前はお前の生きたいように生きろ、あとの事は私に任せておけ…」
「父さん、しかし!」
「行け。マイツ君が呼んでいる…」
「えっ!?」
ズバッ!ドバババーッ!

 戦闘機械バンダーラA  

ドガッ!グワシャーン!
「!この振動はっ!?」
「浩一よ…お前のやる気に呼応して戦闘機械神バンダーラが目覚めようとしているのだ…」
「戦闘‥機械神!?」
「ハイエンド・マンマシーン。…バンダムシリーズの全てを結集させたM・M最終形態。それがバンダー・ラーだ!」
「…さようなら。父さん」
「私はお前に強い武器を持たせる事しか出来なかった愚かな父だ。我々おとなたちの犯してきた戦争という罪をお前たち新しい世代の若者の愛で吹き飛ばしてほしい…」
43歳のコウイチはけっして若くはない。リョーテムにはわからなかった。
コウイチとフローレンはバンダーラのコクピットに乗り込んだ。
メガドルフィンのハッチがリョーテムの操作で開放され、ふたりの目の前に漆黒の無限が広がった。
「コウイチ、見て。このパワーゲージ…!」
「わかっている」
作った奴の冗談でなければ戦艦級のエネルギー量だ。
「こんな化け物みたいなM・Mがあったなんて…下界で作らせたのはこいつの為のダミーだったんだ…」
それならばバンイージスのすさまじい手抜き工事も納得できた。
いや、できなかった。
あれのせいで何度か死にかけたのだ。顔に変な傷もついたし。
「くそっ!マイツ奴っ!」

 戦闘機械バンダーラB  

バンダーは口を開いた目の前の真空に飛び込んで行った。
リョーテムは見送った。
直後に背中に衝撃を感じた。
マイツがリョーテムを撃ったのだった。

*

メガドルフィンを離れてから三十分ほどが経った。
フローレンはバンダーラを操縦するコウイチの膝の上に座っていた。
いくら建て前上、妹のように扱っていたとしてもそこにいるのは若い女であり、客観的に見ればフローレンはそこそこ美人なのだ。
斎藤は勃起した欲望の具体が少女の尻に触れてしまわぬ様、位置を変えたりした。
フローレンはわかっていた。この狭いコックピットの中で二人きりなら感知できて当然だった。
フローレンはドキドキしながら大人の男が、コウイチが自分に対してどのような優しい言葉でモーションをかけてくるのか期待していたのだ。
だが、そのうちサイトウは手の甲でフローレンのお尻をかすめるようにしたり、勃起した物をお尻にツンツン接触させたりというような痴漢まがいの行為をはじめた。
背後の息が荒くなってゆく。
コウイチは無言だった。
フローレンは震えた。
背後でウッという声がして行為は終わった。

*

かれの行為に失望したフローレンはコウイチが眠った隙にバンダーラを母艦に向けて回頭させた。

 戦闘機械バンダーラC  

メガドルフィンに着艦した時の衝撃と震動はコウイチを覚醒させた。
コウイチは慌てて涎を拭いて、膝の上で硬直してる風のフローレンに呼びかけた。
「フロウレン!大変だ、いつの間にかメガドルフィンに追いつかれている…!脱出しなければ…フローレン!?」
「…チ…んて、大……い」
蚊の鳴くような声。
「え?」
「もう話かけないで下さい…」
今度のはなんとか聞こえた。
それは他人行儀な拒絶の言葉だった。
コウイチは全身の血がザッと引く音を聞いたといいます。
しまったと思った。
やはりさっきのあれはまずかったのだと思う。
「と…!とにかく脱出するでありますっ!」
サイトウは心がピンチになったので、22等兵時代の口調が出てしまっていた。
「いやーっ」
フローレンがバンダーラの操作盤を体で覆って隠してしまった。
コウイチから見たそのアングルは、まるで自分がフローレンをバックから責めているようで激しいショックを受けた。
その隙を突いてメガドルフィンのクルーが外部からバンダーラのコクピットのハッチを開けた。
サイトウを取り押さえ、フローレンを救出した。
フローレンはぐったりしていた。サイトウは「ちがうのだ」と叫びながら独房ゆきとなったといいます。
 
 戦闘機械バンダーラD  

「婦女子を人質にとり、我が艦の重要な戦力を個人の物品として徴用し、結果、艦全体を危険に晒した。
 コウ・サイトウ兵曹長を36等兵に格下げとし、十三日間の独房入りとする。
 尚、艦の罰則である99叩きの刑もこれに付随するものとする。
 サイトウ36等兵、これらについて何か申し出たい事はあるか?」
「あの…」
「ん?」
「フローレンはどうしていますか…」
「…フローレン・ボワロ上二等兵は現在も尚、拉致、監禁された精神的心労から立ち直れておらず医務室で栄養剤の点滴を受けている。
 尚、審問の結果、彼女は最新M・Mバンダーラ奪還においての功労者であると認められ三階級特進となった…他になにかあるか」
「父は…父の立場はどうなっているのですか?」
「彼は君の脱走を手配した罪がある。階級を剥奪され食堂の炊飯係として無給で働いている」
「そうですか…」
「連れていけ…」

*

99叩きの刑はその食堂の広場で、ヴァイ・マイツ艦長自身の手で行われる事となった。
斎藤がメガドルフィンの百人近いクルーの見守る中、執行台に引きずり出される。
そこにはすでにマイツが鞭を手にして待っていた。
マイツはできものの潰れた痕に絆創膏をし、唇にうすく紅を引いていた。

 戦闘機械バンダーラE  

コウイチはマイツに背中を向ける形で、台に手錠で固定された。
「これより斎藤コウイチ36等兵の99叩きを執行する!」
士官の声が食堂内に響きわたる。背後でマイツの近づく足音がする。
「コウイチ…非常に残念だ。こんな事になるとは…」
「見え透いた同情の芝居はやめてくれないか、マイツ。僕の事を本当に哀れだと思うのならこんな事はとっとと済ませて早く独房に連れていって一人にしてくれ」
マイツは無表情に鞭を振り上げた。
「いやーっ!コウイチィーっ」
誰かが叫んだ。フローレンの声だ。コウイチはほんの少しだけ救われた気がした。
(いいんだ、フローレン。…君はただ…あの時、緊張してしまっていたんだ…だからパニックであんな事をしてしまったんだよな…)
何秒たってもなかなか鞭が振り下ろされない。恐怖だけが高まってゆき、斎藤は放屁、失禁寸前となった。
(−マイツ!早くしてくれ!)
何かが床を打った。マイツが鞭を落としたのだ。斎藤はじわりと失禁した。
「だめだ…私にはできない…」
マイツの声は激しく震えていた。クルーたちがざわつきだす。マイツは叫ぶ。
「メガドルフィンのクルー達よ…!私を…、コウイチのかわりに私を99回打ってくれえっ!」

 戦闘機械バンダーラ〜最終章@〜ほんとうのあい  

「私をっ、私を百回打てえぇぇっ!」
「マイツ…ッ!?」
コウイチは首をねじってマイツを見た。マイツは本気だった。彼は泣いていた。クルー達はうろたえ、文句を言い、ヤジをとばした。
「それではしめしがつかないでしょう!」
「おたくらホモかよッ」
コウイチは恥辱のあまり放屁、全失禁した。すごい破裂音がして食堂は大ブーイングになった。
「どけっ、俺がやる」
壇上に上がって鞭をとったのはバンカノンのパイロット、乱暴者のピートだった。
コウイチは悲鳴をあげたかった。
(マイツは事態を悪化させている…よりによって乱暴者のピートが出てくるなんて…!)
コウイチは見た。巨漢のピートが残忍な笑顔で鞭を振り上げるのを。そのズボンの中心がいきり立っているのを。
斎藤ははげしい失望と、絶望と共に鞭を受け入れた。43歳だった。
尻たたき99が終わったのはきっかり正午だった。

*

独房ではおもにオナニーをして過ごした。
他にする事がなかったからだ。オカズはフローレンか金髪さんだった。
フローレンは一回だけ面会に来たが、コウイチのオナニーを目撃して無言で立ち去った。
コウイチはその事が不本意であったと手紙を書いたが目の前で看守に破り捨てられた。

 戦闘機械バンダーラ〜最終章A〜ほんとうのあい  

その頃、メキシコ・コロニーではタカハシ専用の新型モビルスーツが最終チェックを行っていた。
ギガ・アーマー<ダイダロシー・ザムール>。タカハシが大戦初期に愛用していた<タイタニック・ザムール>の正統な後継機だ。
タカハシのコピープログラムが行う模擬戦闘をクリアすれば、あとは機体を紅(くれない)色にペイントするだけだった。
「このダイダロシーが量産されたあかつきにはあのこしゃくなメガドルフィンなどひとたまりもありますまい」
技術士官がタカハシの顔色をうかがいながら言った。
タカハシの濃ゆいサングラスの奥の冷視線は何の感情も現していなかった。
「そうあるべきではあるな」
タカハシはそっけなく偉そうに言ってドックをあとにした。
ダイダロシーが紅く塗装されていなかったのでヘソを曲げたのだ。
無重力に近いドックの廊下にタカハシの見事に染めあげた金髪が初夏の旋風のような美しい尾を描いていく。
(サイトウ…貴様がいかにバンダムをパワーアップさせていようと、見事に蹴散らしてみせるぞ。
 地球連合は私の息子を殺した!…今度は貴様等が報復を受ける番なのだ。覚えておくがいい…)
タカハシが息子といっているのは彼のクローンの事だった。
 
 戦闘機械バンダーラ〜最終章B〜せんそうはいけない  

百叩きの刑と独房三十日をクリアしたコウイチは、自分が人間的に成長したように感じていた。
独房にいた三十日の間に艦内は多少、様子が変わったようだった。
まずフローレンに男ができた。アンテヤというメカニック・メンテナイザーだ。
背の高い金髪の白人青年だった。東洋系肥満体中年のコウイチに張り合える相手ではない。
プライベートタイムに髪の濡れたフローレンがアンテヤの部屋から出てくるのを何度か目撃した。
あの白人に抱かれているフローレンの姿を想像すると胸が灼かれた。だがそれは仕方のない事だ。
自分にフローレンの事をどうこう言う資格はない。
サイトウは艦内の娯楽施設に行って、安物のセックスマシーンで気晴らしをし、大便をもらした。
時にはアンテヤに抱かれるフローレンの姿を思い描いて激しく自慰をした。
そして、数年の歳月が流れた。
フローレンはアンテヤと結婚して、子供をもうけ火星に下りた。コウイチは彼女のしあわせをねがった。
「さてコウイチ、我々にはまだやることが残っているな」
マイツ艦長だった。
来月はマイツとの結婚式が控えていた。
「もちろんです。マイツ!」
コウイチはすばらしい笑顔でこたえた。
マイツにはもう見えなかった。

−完







Copyright (c) Kikeroga Inc.




inserted by FC2 system