タカハシの反乱から150年が過ぎた。 齢、185歳になるタカハシは古代火星人の遺跡で発見された生命の泉によって30代の肉体を取り戻し、“エンペラー・タカハシ”を名乗り再び地球連合軍に宣戦布告した。 その手始めに地球連合の植民地である火星都市を強襲し、これを占領下においた。 第一章 コウイチ・マイツヴァー 火星の衛星都市・ツーゥォーヴ1の喧噪は相変わらずだった。 ここは連合に属さない独立都市。眼下の赤い大地にいくつキノコ雲が見えようが関係なさげだった。 肥満体の青年、コウイチ・マイツヴァーはいつものように廃マンマシンの解体作業に励んでいた。 コウイチの緑がかった皮膚に激しく汗がうかんでいた。 「コウイチ、おなかへった」 妹のアヘナだった。妹といっても血のつながりは半分で、コウイチのような緑色の皮膚の遺伝子は受け継いでいない。 まだ5歳の幼い子供だ。25歳のコウイチはよく父親と間違われる。 「もうちょっとで終わるから待っててな!アヘナは我慢強い女の子だろっ」 コウイチの声は過労で裏返っていた。 「うん、アヘナはがまんづよいよっ」 コウイチはジャンク屋だった。軍で廃棄されたマシンから使えそうなパーツを集めて売るのだ。 コウイチ・マイツヴァーは遺伝子操作によって生まれたサイコ・バイ・マイツを父に持つ半火星人だった。 父、サイコは複雑な出生の事情を持った人で、生前はよくコウイチに暴力をふるった。 サイコには母親が存在しなかった。 浩一とヴァイという二人の父親がいた。 どういう事かというとサイコの二人の父はホモのカップルで、結婚したものの当然子供が出来ず、悩んだ末、軍の退職金を使って二人の遺伝子を混合させた子を作ってほしいと火星総大の研究所に依頼したのだ。 だが手違いがあって、誕生した子供は酸素の薄い火星の大気中でも生存を可能とした光合成細胞体を持つ緑人だった。 宇宙生活の長い浩一とヴァイの細胞を結合させた事と、研究所の実験データの取り違いにより発生した呪わしき失敗だった。 二人の父親は生まれたばかりのサイコを赤い砂漠に捨て、この星を去った。 サイコは古代火星人の生き残りの部族に拾われ、砂漠で成人した。 火星都市に戻りおのれの出生の秘密を知ったサイコは父達を追って宇宙に出た。そして父のひとり、浩一の駆るマンマシン“パール・バンダム”によって宇宙の塵となったのだ。 コウイチが15歳の時だ。 コウイチの緑がかった肌は父ゆずりだ。 第二章 フラウニー・ポワロ 火星都市は半壊し、その崩れかけた街角にはネオ・アイアンストーン軍(NIS)のバトル・リレイヤー“カムリ”の金色の巨体が我が物顔で徘徊していた。 “カムリ”はエンペラー・タカハシみずからがデザインしたNISの高性能主力戦闘ロボだった。 その一体が突然の砲撃を受けた。 中性子ビーム弾。顔の部分、カムリのコックピットに直撃してさらにその背後にあったビルを二つ貫通して消散する。 「ゲリラどもだ!」 カムリたちが迎撃体制にはいった。 だがまたどこからかビーム弾が発射され一機、また一機とカムリは葬られた。 「ビルの中からだ!」 残った三機のカムリが四方のビルに向かってライフルを乱射する。 だがその間に一機やられ、カムリは二機になった。 「くそっどのビルだ!」 エンドット大尉は悪態をついた。 「このままでは全滅する!ここはいったん後退しよう!」 返事はなかった。 かわりに背後で爆発があった。 エンドットは一人になったことを恐怖したがそれも一瞬だった。 全滅したカムリたちの前に現れたのはクラゲのような頭の形をした異形の人型マシンだ。 サイズも軍の標準よりもひとまわり以上は小さい。 「やったね、姫ねえちん」 「ええ、やっつけてやったわね。おかあさんたちのかたき‥」 異形のマシンのコックピットには一組の少年少女が乗っていた。 座席につき、操縦しているのが少女で、その後ろの狭い隙間のスペースでイスにしがみついているのがやや年下とみえる少年だ。 フラウニー・ポワロとハスス・ボワロ。二人は姉弟だ。 「すごいやっ!姫ねえちん!」 「うん、でもこのマシンの性能のおかげだね。あと小型だからこうやって隠れたりする戦法で有利だったんだ…。さて、じゃあズラかるわよ!衛星カメラに見つかる前にね」 「そういうのはNISがここの攻撃の前に撃ち落としたと思うよ」 「ばかね、ツーゥォーヴのが使われてるかもしれないでしょ」 「ツーゥォーヴは独立都市だから戦争には加担しないよ」 「そういう理屈とか約束はこういう時には通らないのよ。とくにここを攻撃してきた連中はまともじゃないんだから」 「…そうだけど」 クラゲ頭のマシンは鮮やかなスピードで変形した。 プロペラのないヘリコプターのような形になってビルの隙間をぬって飛び去った。 * 「なに…?火星第七都市の制圧隊が連絡を絶った?」 火星の衛星軌道上に鎮座する巨大要塞空母グレート・タカハシ。全長五千m。 タカハシ大総領は紅い全身タイツ姿に白銀のマント、金のブーツといったいでたちだ。 金のブーツは厚底のもので、タカハシの身長を本来の166センチよりも12センチほど高く見せていた。

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